fictaの生まれた、その瞬間(とき)

fictaは不思議な生き物だと思います。

彼の生まれは奇妙でした。彼は生まれるべくして生まれたわけではありません。

先に生まれたのはその母でした。母は学術名「ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ」。数が少ないニシローランドゴリラの亜種「クロスリバーゴリラ」。彼女の生まれはナイジェリアなのです。しかし、母ゴリラはなにもせずにじっとしている毎日でした。

「私の思った通りにならない」

そういって、クロイスフルツ博士は嘆いていました。この時の博士はなんでも失敗したことを他人のせいにしていたのです。それから二回冬が訪れました。博士は嫌々ながら、他人の研究を手伝っていましたが、疲れていました。そしてある日、博士の担当していた研究は打ち切られました。途方に暮れていた時に、昔からやっていた研究に戻っていました。それしかすることがないからです。また、この時助手のゲシュラムを雇いました。そして、神様の話の研究を真面目に取り組みました。それがfictaの誕生でした。

fictaの生まれる先に言葉がありました。神様がやってきたことをじっと見つめると、そこには一つの道のりが見えてきました。それこそが英雄譚を一つにまとめたmono-mythである、神話理論です。また、それを映画などに応用したのが神話の法則でした。fictaが生まれる前には言葉と知性があったのです。

fictaは知恵の泉の中で、しばらくの間、養われていきます。まるで巨大な水の玉の中で培養されるように、じっくりとじっくりと栄養が与え続けられました。その間、クロイスフルツ博士は何度も挫折を味わうのです。まさにそれ自体が英雄譚の道のりでした。資金も底を付き、もうだめだとクロイスフルツ博士は嘆きます。そのたびに、誰かがやってきて、やってみなはれと手を貸してくれるのでした。

倒れかける度に、ぼろぼろになりながらも博士は研究をやめようとしませんでした。途中、何度も別の研究をするように周りの人から言われて、心を揺り動かされます。しかし、うまくは行きません。博士はそのたびにもとの研究に戻るのでした。

最初は全くの門外漢だったクロイスフルツ博士も、この領域の専門家として、とても知識をつけました。ある日、この領域で圧倒的な知識と知恵、実績を持つS教授を訪れます。S教授は自分のラボに招待してくれました。

博士はまた新たしい仲魔を見つけました。自分の思いを貫くって大変だけど、勇気がいるけど、すごいことなんだと想いました。助手のゲシュラムは博士の横暴を毎日受け止めてくれていました。辛い時も笑ってくれています。博士はそんなゲシュラムに心のなかではごめん、と言っているのです。

雨の日も風の日も、雪の日も、そして晴れた日も博士は何も見ず一心不乱に研究を続けます。そして、とうとうfictaが目覚めました。パチパチと目をパチクリさせてこちらを見つめるficta。博士は大きな水の玉からfictaをすくい上げると、フッーっと大きなため息を着きました。fictaにはまだ足りないものがあったのです。それは心でした。

「あぁ、私はなぜこんな失敗をしてしまったのだろうか」

博士は、泣き出しました。ですが、それを見ていたゲシュラムが怒りだします。

「博士、研究というものはこういうものです。fictaを育てましょう」

そして、fictaにこころを生み出す実験を始めたのです。毎日毎日、色んな人がfictaのところに遊びに来てくれます。ですが、fictaはとても人見知りなので、人々はつまらないとどんどん去っていきました。そして、ある日、パタリと一足が途絶えたのです。

「やはり、私の実験は失敗だったんだ」

大きく肩を落とすと、ゲシュラムはこういいました。

「いえ、博士。それは間違いです。あれを見て下さい」

そこには一人の女性が立っていました。fictaを抱き上げニッコリと笑い、抱きしめてくれました。そこで、はじめてfictaは鳴き声を上げました。

fictaにようやくココロが生まれた瞬間でした。実は、fictaにはココロがなかったわけではありません。むしろ、fictaには大きな力とココロがありました。ですが、それを見せるためには、博士とゲシュラム以外にfictaを愛してくれる人が現れるのを待っていたのです。

その様子を見て博士はまた、涙します。

「fictaはここから変わるよ」

「なにを今更言っているんですか博士。私は最初からそう言っていたではありませんか」

ゲシュラムはそう言って、おいしいコーヒーを淹れてくれたのです。

おしまい