男のパトスとパトスのぶつかり合いが面白い!映画「セッション」の構成解析

私たちは偶に、他人の狂気を覗き見たくなる。例えばマルコビッチの穴や時計じかけのオレンジなどがそれに該当する。トレインスポッティングもだ。そして、今日紹介する、映画「セッション(原題 : Whiplash)」もそれに該当するが、エンディングまで見ると、何故か高校スポーツのラストのような爽快感がそこには存在していた。

映画名:セッション

1:なぜこの作品を選択したか

「セッション」(原題: Whiplash)は、2014年にアメリカにて公開され第87回アカデミー賞に5部門ノミネート、3部門受賞という快挙で話題を呼び、助演の鬼気迫る演技と主演の血肉を削る役作りや表現、そしてテーマでもある音楽の洗練度の高さといった点が評価を受けている。一方で、主人公の挑戦の過程とラストへのストーリー展開も最後まで観客を強く惹きつけている要素である。ともすると共感を呼びにくい登場人物の人並み外れた音楽への熱量を見事にラストの興奮、感動へ昇華しているこの作品の面白さを、画面の雰囲気や情感のみによるものではなく構造的な理論に当てはめて見てみたい。

2:登場人物の分析

1. 名前     :アンドリュー・ニーマン ニックネーム :ニーマン アーキタイプ :HERO(主人公) エニアグラム :8.挑戦する人 テオプラストス:△23.横柄な人間、(19.無作法な人間)、(18.疑い深い人間) 特徴     :ドラムに関して負けず嫌いの野心家かつ努力家だが少々傲慢さがある。家族の音楽の道に対する理解の無さに鬱屈している。 名前の由来  :言及なし

2. 名前     :テレンス・フレッチャ ニックネーム :フレッチャ アーキタイプ :2.shadow 影、4.herald 使者、3メンター エニアグラム :8.挑戦する人 テオプラストス:23.横柄な人間、19.無作法な人間 特徴     :鬼教師。音楽に関しては徹底的に突き詰め他の価値観は認めない。外的評価を気にする。 名前の由来  :言及なし。

 

3. 名前     :父(ジム・ニーマン) ニックネーム :なし アーキタイプ :(一部の意味で)2.影。親としての心配から息子の音楽の道を懸念している、成功の可能性を信じていない (一部の意味で)8.仲間。友人関係の希薄なアンドリューにとって絶対的な唯一の味方。 エニアグラム :2.人を助ける人 テオプラストス:該当なし。 特徴     :アンドリューに対しては唯一の保護者として愛情深く接している。半面、それが息子の挫折を心配する優しさ、甘さにもなっている。 名前の由来  :なし

4. 名前     :ニコル ニックネーム :なし アーキタイプ :6.シェイプシフター。 エニアグラム :該当なし テオプラストス:(一面的な見方では)26.年寄りの冷や水をする人間 特徴     :ニーマンに魅力を感じ、支えてくれえる存在となりかけていた。だが音楽の鬼と化したニーマンにとっては音楽への強固な志の邪魔になる存在。ただ、彼女自身は等身大で年相応の悩み事を抱える一般的な大学生の一人であり、人並み外れて執念の強いニーマンを対照化する「普通の人」の象徴ととれる。アリゾナ出身。 名前の由来  :なし。

5. 名前     :カール・タナー ニックネーム :タナー アーキタイプ :(一部の意味で)4.使者。互角のライバルとして、ニーマンの競争心や向上心の煽り手となる。 エニアグラム :(6.忠実な人?) テオプラストス:内面描写がそれほどなく、物語の鍵となるほどではない。 特徴     :ニーマンと互角で闘うライバル。ニーマンが奪うべき座につく、直接的な敵。そのため彼のミスによりニーマンにチャンスを与える場面もある。 名前の由来  :なし。

6. 名前     :ライアン・コノリー ニックネーム :コノリー、バンドメイトからはライアン アーキタイプ :該当するほどの効果的な役回りとは言えないが、しいて言えば 4.使者。タナーほどではないが実力の比較対象とされ、ニーマンに刺激を与える。 エニアグラム :(8.熱中する人?) テオプラストス:内面描写がそれほどなく、物語の鍵となるほどでない。 特徴     :ニーマンのライバルであるが、タナーほどの存在感はない。ニーマンが元いたバンドの出身であるため、下剋上的にニーマンを追い上げる脅威として受け取れる。 名前の由来  :なし。

 

3:世界観の説明

 2010年代アメリカ、中心的な大都市。

 舞台はシェイファー音楽院となっているが、ニューヨークに実在するアメリカ最高峰の芸術大学ジュリアード音楽院がモデルであるようである。そのうちニーマンはドラム専攻で、彼のように各楽器の専攻者が演奏するレベル別のバンドが形成されておりその指揮と進行は学院の教師が行っている。フレッチャーは学院の中でも随一のレベルの高さを誇るバンドの指揮者であり、バンドメンバーは彼の一方的な眼識によって選り抜かれる。メンバー、学生同士の関係は仲間というよりも競争の中の敵対的なライバルという感が強い。少なくともバンドの中では学生の独自色を大事にするというよりも教師の統一的な方向性に従う雰囲気が強い。

 社会風土として、人権保護が浸透しており侵害事例に対する糾弾、調査、管理のための制度も整備されている。教育現場においても、暴言や威圧的な態度等精神的苦痛を招くものは糾弾の対象となる。

 ニーマン家の生活水準は一般的な上層中流階級。優等生なアンドリューの兄弟は将来に希望的な面から、雇用や景気は安定的で全体的な経済状況も悪くないようである。

4:作品の分析

第一幕 45分

1:日常世界

  ニーマンはアメリカ屈指の音楽大学に通いドラムを専攻する大学生。伝説のドラマーを崇拝し自らの目標として練習に打ち込むが学校内では取り立ててて持てはやされる存在ではない。プライベート面では気になる女の子もいる一般的な若者だが、年の割に父親と仲が良く家族のしがらみから自立できていない面がある。

2:冒険への誘い

 実力ある鬼教師として有名なフレッチャーに声をかけられ、ヘッドハントされる。

3:冒険の拒絶

 期待の反面、フレッチャーの指導はあまりにも厳しく、攻撃的なものだった。ニーマンは屈辱を味わわされ自尊心に傷がつく。

4:メンターとの出会い

 屈辱的な思いから猛練習を始めるニーマン。その拠り所となったのは伝説的ドラマーの存在やその生き様、演奏の数々(メンター)

5:戸口の通過

 偶然の結果で、ニーマンが猛練習の努力を披露するチャンスをつかみ、演奏会で成功を収める。主奏者としてフレッチャーにも認められる。(第一関門の突破)

第二幕 30分

6:試練、仲間、敵対者

  演奏会において一時の成功を掴んだニーマンだが、彼を取り巻く様々な人間関係が動きを見せ、いずれもドラムに対する執念を加速させる。

  • 足を引っ張る彼女(敵対者)---自分からの好意で付き合っていたが、きわめて普通の大学生である彼女と過ごす時間がドラムの追究にとって邪険なものに感じ別れる。
  • 成功を理解しない家族(敵対者=甘さの表裏)---久しぶりに集まった家族に、ニーマンの音楽への才能や志、考えが共感されない。兄弟のように堅実で社会的な道での成功を促される。
  • 新たなライバル(敵対者)---以前所属していたバンドのチームメイトだったコノリーがフレッチャバンドに招待され、ニーマンを追い上げてくるようなライバルになる。(試練)

7:最も危険な場所への接近​

  演奏会を間近に控えたバンド練習の日、コノリー、タナー、ニーマンの三者で激烈な主奏者争いをさせる。三人に対しフレッチャーは誰にも妥協した態度は見せず、いつもよりさらに酷い罵詈雑言によって三人の闘争心を煽らせ、各人の限界まで追い詰める。ニーマンはフレッチャーを一瞬怯ませる程の必死の食らいつきをみせ、最終的に勝利する。

8:最大の試練

 大舞台である本番当日、ニーマンは遅刻疑惑の焦燥感から道中車の衝突事故に遭い負傷する。執念で流血しながらもステージに滑り込み、演奏を始める。

9:報酬

  それでも肉体の負傷のせいで演奏を中断してしまう。フレッチャーは非情にも屈辱的な敗北宣言を告げる。ニーマンは血のにじむ努力が報われないことに絶望しながら、フレッチャーの態度に激昂し、掴みかかって暴力沙汰になる。(ここでの「報酬」=どん底の絶望)

第三幕 20分

10:帰路

  ​事件後、ニーマンは大学を退学させられ音楽の道も諦める。父親の働きかけで第三者である公的機関からフレッチャーの行き過ぎた指導について取り調べを受ける。はじめはフレッチャーをかばう態度だったが、懐柔され実情を口にしてしまう。

  その後しばらく父親と共に音楽とは離れた生活を送る。

11:復活  

月日が経ったある日、偶然にフレッチャーが参加するジャズセッションの看板を目にする。思わず立ち寄り、フレッチャーの演奏に聴き入る。気まずさから対面を避けようとするも避けきれず、事件後ぶりに顔を合わせ、フレッチャーが学院を辞させめたことを告げられる。別れ際に近日のジャズフェスティバルの演奏の誘いを受け、断る態度を見せたものの、フレッチャーの希望により出演を了承しドラムを再開することになる。(復活-1)

 

当日、意気揚々と本番に向かったニーマンであったが、フレッチャーの騙し打ちにより大恥をかく。ニーマンは惨めな様子で舞台を後にする。舞台袖に待機していた父親に縋りかけるも、瞬間的にニーマンの中で何かが吹っ切れステージへ戻ることを決意する。(復活-2)

12:宝を持っての(帰還)

 ニーマンはフレッチャーの指揮を従わず勝手に演奏をはじめステージを乗っ取る。はじめこそ怒りに燃えていたフレッチャーにも、最後にはニーマンの意地と執念で実力を認めさせ(宝)、二人が初めて出会った曲"whiplash"の演奏で幕が閉じる。 

まとめ

この物語は後半(7-12)の方が展開のスピードが早く内容が密になっているのでシーンの区切りが細かくなっている。そのため、第一幕は45/106分、第二幕は75/106分、と均等な時間配分ではない。時間的には約半分を占めてつつも、第一幕はかねがね理論に沿っている。

エンディングの特徴として「復活」にあたるクライマックスがかなり後におかれており、「12.宝を持っての帰還」において「帰還」の先の生活の描写はされずに終わっている。主人公の「宝」を得た後の行く末はどんなものか、理論に当てはまらない場合も含み複数の解釈が可能である。

この物語において特徴的なのは主人公にとってあらゆるものが「敵対者」になりえること、「仲間」が「敵」と表裏の存在であること、そして「メンター」の存在が周りの人間ではないところである。これはこの物語の主軸が主人公の挑戦と成長という内面におかれており、他者との関係性の面では複数の要素を抱えているフレッチャーの存在感が非常に強いためである。

総論としては、セッションはヒーローズジャーニーに当てはまる流れを踏まえつつも、エンディングに向かう展開や特徴的な設定によるキャラクターの役割などの例外的な面もある物語だと言える。

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クロスリバでは、既存映画の解析も独自に行っており、構造化することで可視化されることの素晴らしさをご紹介できればと思っております。