映画分析(バック・トゥ・ザ・フューチャー)

もしも、過去に戻れたら・・・誰しもがそんなことを思う失敗をしているものである。バック・トゥ・ザ・フューチャーは過去を変えてしまったら今の自分はどうなるのかというパラドクスを一切無視して話を成立させている、稀有な物語である。

バック・トゥ・ザ・フューチャー(Part1)

1:なぜこの作品を選択したか

 『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズは、30年にわたって世界中で愛されている名作映画である。昨年(2015年)には、この年がシリーズ第一作の公開から30周年であると同時に、作中でのタイムトラベル先でもあったことが話題になった。

 この映画の魅力はなんといっても、キャラの立った登場人物たちと、デロリアンのようなガジェット、そして、タイムトラベル前後のアメリカ社会の変化を巧みに描いているところであろう。しかも、シリーズものにしては珍しく、全作品が絶妙に絡み合い、どれも面白くなっている。

 今回は、主人公マーティの時空を超えた旅(タイムトラベル)の物語を、「ヒーローズ・ジャーニー(英雄の旅路)」の図式をもとに分析することで、この作品の完成度が高い理由の一端に迫ってみよう。

※なお、今回扱うのは、シリーズの第一作目。

2:登場人物の分析

1. 名前     :マーティン・マクフライ ニックネーム :マーティ アーキタイプ :主人公、シェイプシフター エニアグラム :8. 挑戦する人。 テオプラストス:見栄っぱりな人間。無作法な人間。臆病者。 特徴     :勇猛果敢だが臆病なところもある。女好き。口ぐせは「ヘビーだ」。 名前の由来  :特になし。

2. 名前     :ジョージ・マクフライ ニックネーム :特になし アーキタイプ :主人公その2 エニアグラム :4. 個性的な人、6. 忠実な人。 テオプラストス:タイミングの悪い人間。臆病者。 特徴     :内気で臆病。タイミングが悪く、行動を起こそうとすると、  つねに邪魔が入ってしまう。創作欲はあるが、人には見せない。 名前の由来  :特になし。

3. 名前     :ロレイン・マクフライ ニックネーム :特になし アーキタイプ :Alley エニアグラム :2. 人を助ける人〔車にはねられたマーティを積極的に看護する〕。 テオプラストス:おせっかい。貪欲な人間。 特徴     :堅物だが、若いころは異性に対して積極的。 名前の由来  :ユニバーサル・スタジオ社長の妻の名前から?

4. 名前     :ビフ・タネン ニックネーム :特になし アーキタイプ :敵(シャドウ) エニアグラム :1. 改革する人、2. 人を助ける人、5. 調べる人、8. 挑戦する人、9. 平和をもたらす人〔完全な悪役なので、欠点のみ当てはまる〕。 テオプラストス:粗野な人間。嫌がらせをする男。無作法な人間。横柄な人間。独裁者。貪欲な人間。 特徴     :若いころから横暴のかぎりを尽くしている。 名前の由来  :当時のユニバーサル社長(ネッド・タネン)のファミリー・ネームから。

5.

名前     :エメット・ブラウン ニックネーム :ドク アーキタイプ :使者、Alley エニアグラム :2. 人を助ける人、3. 達成する人、5. 調べる人、7. 熱中する人、8. 挑戦する人。 テオプラストス:疑い深い人間。 特徴     :天才肌の変わり者。理屈っぽい。口ぐせは「なせば成る」。

名前の由来  :特になし。

3:世界観の説明

舞台は、アメリカ・ロサンゼルス郊外を思わせる架空の町ヒルバレー。タイムトラベルするため、1955年と1985年という二つの時代の町が舞台となる。 1955年のヒルバレー周辺

経済:1985年にマーティたちの住む郊外の住宅街はまだ建設中。中心地は賑わっている。人々も豊かなようで、高校生が車を乗り回している。

衛生:街の中心地は非常に綺麗。

文化:公民権運動が高まる直前のため、黒人の地位は低い。レーガンの出演する映画が上映されている。

1985年のヒルバレー周辺 経済:中心地は人で賑わってはいるが、閉店してボロボロになっている店もある。 衛生:郊外の住宅街の入口には落書きが目立つが、基本的には綺麗で閑静。 文化:黒人の市長が誕生している。1955年に俳優だったレーガンが大統領になっている。

4:作品の分析

ログ・ライン:タイムマシンで過去の世界にやって来た青年が、図らずも改変してしまった過去を元通りにしたうえで、未来の世界へと戻ろうとする。

シノプシス:ヒルバレーに住む高校生マーティは、ある日、友人の発明家ドクに呼び出される。指定された場所に向かうと、そこにあるのはタイムマシンに改造されたデロリアンだった。タイムスリップの実演が始まるが、そこに武装したテロリストが現れ、ドクは撃たれてしまう。戸惑うマーティは、デロリアンに乗り込み逃走するが、図らずも30年前のヒルバレーにタイムスリップしてしまう。そこでマーティは、まだ学生だった頃の自分の両親に遭遇するのだが、二人が恋に落ちるきっかけを邪魔してしまう。このままでは未来の自分がいなくなってしまうため、マーティは二人を恋仲にしようと必死に立ち回る。タイムリミットは、時計塔に雷が落ちる日。この日を逃したら、タイムスリップに必要なエネルギーが得られず、マーティは未来に戻れない。しかし、不良少年ビフの妨害などにより、マーティの計画は失敗続き。果たしてマーティは、自分の未来を取り戻すことができるのか?

第一幕(約30分)

1:日常世界(Ordinary World)

マクフライ家はうだつのあがらない一家であり、マーティ自身は、境遇に不満を持ちつつも、行動を起こせずにいる。

ジョージ】高校の同級生ビフとその手下たちに虐められている。

2:冒険への誘い

 ある晩、ドクから呼び出されたマーティが指定された場所にいくと、そこにあるのはタイムマシンに改造されたデロリアンだった。ドクは、マーティの前でタイムトラベルを実演してみせる。

ジョージ】ロレインをデートに誘うよう、マーティに勧められる。

3:冒険の拒絶

ジョージ】ロレインに断れることを恐れて拒否する。

4:メンターとの出会い

ジョージ】マーティ扮する宇宙人から、ロレインを誘うよう命じられ、受け入れる。

5:戸口の通過

 そこに武装したテロリストが現れ、ドクは射殺されてしまう。マーティはテロリストから逃れるために、デロリアンに乗り込み逃走を図るが、予期せずタイムトラベルしてしまい、1985年から1955年の世界へと移動することになる。

ジョージ】ロレインを誘う決心がつき、彼女のいるカフェへと向かう。

第二幕(約60分)

6:試練、仲間、敵対者

マーティは1955年のドク(Alley)に会い、1985年に戻してくれるように頼む。その間に、若き日の母ロレイン(Alley)に一目ぼれされてしまい、未来の自分が消える危機に陥る(試練)。なんとか父ジョージとロレインを結び付けようとするが、ビフ(敵)がいちいち邪魔に入る。

ジョージ】マーティ(Alley)の指導の下、ロレインをデートに誘うとするも、ビフ(敵)に邪魔されてしまう。

7:最も危険な場所への接近​

 ダンスパーティー当日は、時計台に雷が落ちる日でもあり、タイムトラベルのチャンスである。マーティは、ロレインとジョージを結びつけた上で、時間通りにタイムトラベルを試みなければならない。

ジョージ】マーティとの計画通り、パーティ会場の駐車場に向かうが、そこにいたのはビフだった。

8:最大の試練

マーティは、ジョージと練った計画を実行に移そうとするが、ビフに邪魔され、連れ去られてしまう。ジョージがビフに打ち勝つも、その後のダンスパーティーで、ジョージはロレインとの関係で一歩踏み出すことができず、マーティは消滅してしまいそうになる。

ジョージ】ビフに追い詰められるが、隙を突いて反撃し勝利する。

9:報酬

ジョージとロレインが結ばれたため、マーティは消滅を免れる。

ジョージ】ロレインの気持ちを手に入れる。

第三幕(約30分)

10:帰路​

タイムトラベル直前、電流を伝えるコードがはずれてしまったり、デロリアンがエンストを起こしたりと危機を迎えるが、かろうじてタイムトラベルに成功する。

11:復活

1985年に戻ったマーティは、ドクのもとへと急ぐが、結局ドクが撃たれるのを防ぐことができなかった。マーティは、倒れたドクのかたわらで嘆き悲しむが、ふいにドクが起き上がる。彼は、1955年にマーティが残した忠告の手紙を実は読んでおり、防弾チョッキを着込んでいたのだった。

12:宝を持っての帰還

マーティが自宅で朝を迎えると、1985年のマクフライ家の状況が、タイムトラベル前に比べてはるかに良くなっていることに気づく。

まとめ

 タイムトラベルまでは、「冒険の拒絶」や「メンターとの出会い」が省略されることで、簡潔な流れになっている(約30分/116分)。

 1955年へのタイムトラベル後は、マーティの物語と同時に、ジョージの物語が描かれており、こちらは「1. 日常世界」〜「9. 報酬」まで、「ヒーローズ・ジャーニー」の図式に沿ったかたちで展開している(約60分/116分)。ここから分かるように、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズの主人公はもちろんマーティだが、PART1に関しては、ジョージを第二の主人公と見ることができ、マーティはむしろ彼のメンターとして機能している。

 「11. 復活」に関しては、マーティではなくドクの死と復活になってしまうが、帰還後に訪れる最後の危機とその回避という点では当てはまっているだろう。

 このように見てくると、この映画は、「ヒーローズ・ジャーニー」の図式にほぼ沿っており、さらに、タイムトラベル後の物語には、この図式がいわば入れ子のように存在していることもわかる

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